第6章 原作編《期末試験》
紫沫SIDE
その胸の暖かさは身に覚えがあった。
それを感じたのはいつだったかーー…
そうだ。今はもういない両親がくれた気持ちだ。
大事に想ってくれていた、ずっと見守ってくれていた、誰よりも傍にいてくれた。
幼い頃からずっと…その時、ある光景が頭の中に浮かんだ。
〈紫沫、お母さんと"契約"をしましょう〉
〈けいやく…?〉
〈そう。今はまだその"個性"は紫沫には強過ぎるから。もうちょっと大きくなるまで大事に取っておくの〉
そう言って重ねられた手はとても温かくて安心できた。
少しして放されると、私の小さな掌の上には小さな結晶。
何処かで見た事がある様な…小さな…見知らぬ人影が持っていた結晶。
そこで私は漸く思い出した。あれは私の"個性"の契約だったのだと。
この"個性"は私が最初から持っていたもの。
〈俺も、紫沫の"個性"好きだ〉
私の方が気付いてなかったよ、轟君。
いきなり発動して暴走したから、思い通りにならないから、何処かで私の"個性"はこんなものじゃなかったのにって思ってた。
(これも間違いなく私の"個性")
瞳を閉じて服の上から胸元にある雪の結晶のチャームに手を当てた。
"個性"に身を委ねて、今度こそ心を落ち着かせて。
「雪が弱まるイメージ…」
そのイメージは轟君が綺麗だと言ってくれた、もう一つの私の"個性"ーー"治癒"を思い浮かべた。
幼いあの日、轟君の前で初めて発動してから幾度となく使ってきたけど、その度に相手を想っていた気がする。
(誰よりも一番想っていたのはきっと…)
ゆっくりと瞼を上げていくと、目に飛び込んで来たのは辺り一面に舞うキラキラ光る雪の結晶。
「出来た…簡単な事だったんだね、轟君」
難しく考えすぎていた。
変に意識して、身構えて、無理矢理抑えようなんてする必要なかったんだ。
そして、徐々にそれも消えて行く。
自分の意思で"個性"を止める事が出来た。
《雪水紫沫、条件達成!》
試験会場に響き渡るアナウンスを聞いて、改めてクリア出来た事を実感し、安堵した。
途端に身体の力が抜けてその場にへたり込んでしまう。
「…腰抜けちゃった」
《何やってんだ。ったく、迎えをよこすからそこで待て》
直ぐに立ち上がる事が出来そうにないので、相澤先生の指示通り待つ事にした。
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