第5章 原作編《ヒーロー情報学〜ヒーロー基礎学》
紫沫SIDE
ゆっくりと放れていく感触にいつにも増して名残惜しさが残るも、瞳を開けると視線が交わり、なんだかくすぐったい気持ちになった。
「そう言えば、いつの間に退院してたの?」
「今朝戻った。俺は軽傷だったからな。職場体験続けねェと」
「職場体験!?忘れてた!今何時!?」
「親父がまたヒーロー殺しの件で動けねぇのと、紫沫が昨日倒れたっつうので目が覚めるまで待機になってるから大丈夫だ。それより、倒れる様な事させた親父が気にくわねぇ」
「それは…私の"個性"の事知ってるみたいで、稽古つけてくれたと言うか…」
「制御出来ねぇってわかっててやらせたなら、尚悪ぃだろ。しかも、寝不足みてェだからすぐには目覚めねぇってサイドキックが言ってたぞ」
「ゔ…ごめんなさい…」
「まァ、俺も心配かけた手前あんま強く言えねぇが…無茶すんな」
「はい…」
さっきまでの空気は既になくて、それでも依然距離は近いままだから、この状況をどうしたものかと思っていたら、案外あっさりとその距離は離れていった。
「わかってんなら良い。そろそろ準備するか?」
そうだ。また忘れかけていたけど、今は職場体験中なのだからいつまでも寝ている訳にはいかない。
因みに寝ていたのは事務所内にある部屋で、普段は遠征等で来るヒーロー達の為に用意されているものらしい。
制服に着替えるからと轟君に部屋を出てもらおうとした時だった。
「一応、首元隠しとけよ」
「首元?」
「キスマーク。バレていいなら構わねェけど」
そう言って部屋を出て行かれ、私は慌てて鏡で確認すると首元には赤い痕。
病院で感じたあの鈍い痛みの事をすっかり忘れていた。
もしかして緑谷君達にバレたりしてないか不安になるも、わざわざ確認して自爆するのも嫌なので、取り敢えずこの場を乗り切る事に専念する。
髪でなんとか隠し、今後の活動についてサイドキックに確認しに行くと、エンデヴァーが動ける様になるまでは稽古となり、残りの職場体験は対人スキルを習ったり、事務所に来た応援要請で現場に出たりと実践に近い経験をさせてもらった。
とは言え"個性"の使えない私は後方支援のみだったのだけれど。
あれ以降、エンデヴァーから"個性"に関して何かを言われる事もなく、あっという間に職場体験は終わりを告げたのだった。
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