第5章 原作編《ヒーロー情報学〜ヒーロー基礎学》
紫沫SIDE
(背中が暖かい…お腹の辺りに、何か乗ってる…)
寝起きの微睡みの中、感じる温もりに心地いいなんて思っていたら、徐々に覚醒した意識がそれを違和感として捉え始める。
そして、ゆっくりと瞼を上げると、目の前に飛び込んで来たのは誰かの腕だった。
それは所謂腕枕という物で…そこで漸く今の状況を理解する。
(え?待って。誰かに抱き締められてる?…誰に??)
背後に人の気配を感じるものの、それが誰かまでは確認しない事にはわからない。
いや、可能性としてある人が思い浮かんだけれど…
でも、この目で見るまでは信じられず、そこから抜け出そうと少し身じろぎをすると、今までお腹の上に乗っているだけだった腕に力が入り背後の誰かに引き寄せられる。
自動的に距離が縮まり、寝ている筈なのに腕の力が強くて抜け出せなくなってしまった。
そして、駄目押しの様に少し掠れた低い声が至近距離で囁く。
「まだ、眠ィ…」
「とっ、轟君!?」
未だに顔は見えないけど、その声は間違いなく轟君のもので、一体何故私の部屋で寝ているのか、そして何故後ろから抱き締められているのか、軽くパニックを起こしかける。
「ちょ!起きて!!何でここに轟君が!?」
朝だと言うのに結構な大声を出してしまった。
流石に煩かったのか、何とか目を覚ましてくれた様子なのに、腕の力は弱まる気配がない。
「…今、何時だ?」
「えっと、あの、離してくれないとわからない、かな」
何故このまま普通に会話をしているのかがわからない。
昨日の夜は確か泣いてしまった私の目を冷ましてくれたのは覚えてる。
しかし、その先の事が思い出せない。
「…もしかして、私あのまま寝ちゃった?」
「ああ。紫沫をベッドに寝かせて自分の部屋に帰るつもりが、寝顔見てたら眠くなっちまった」
「…そんなもの見ないで下さい」
寝起きから衝撃的過ぎて、恥ずかしさを通り越して冷静になってしまった。
「後、そろそろ放して?時間知りたいんだよね?」
そこで漸く解放された私は部屋に備え付けられた電子時計を確認する。
朝のバイキングまでまだ少し時間があると言う事は寝坊はしていない。
隣で動いた気配がして視線を向けると、半身を起こして欠伸をしている姿が目に入った。
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