第5章 原作編《ヒーロー情報学〜ヒーロー基礎学》
紫沫SIDE
昨日はあの後部屋に戻ってすぐ眠りに落ちたからか、いつもより少しだけ早くに目が覚めた。
朝食はホテルのバイキングが用意されていて、早目に行った事もあり事務所の人や轟君と顔を合わせる事なく簡単に済ませ部屋へと戻る。
正直どんな顔して会えばいいのかわからなかったから良かったけど、このままという訳にはいかない。
これから数日は同じ所でお世話になるのだから、毎日顔を合わせるし、きっと行動を共にすることになる。何とかしなくてはと思うけど、気持ちに上手く整理がつけられないまま時間だけが過ぎて行った。
今日もまたヒーロー殺しのパトロールに出掛けるという事で、一先ずコスチュームに着替え集合場所であるホテルの会議室へと向かう。
「結局考えが纏まらないままだ…」
どんなに悩んでも時間が待ってくれる事はなく、あっという間に会議室の前まで着いてしまう。
職場体験でお世話になっているのだから遅刻なんて出来ないのもあり、意を決して扉を開けようとしたその時、背後から声がした。
「紫沫、おはよ」
「っおはよ」
不意打ちの登場に心臓が飛び跳ねる。
やはり顔を見る事が出来ずに、背を向けたまま挨拶をして、そのまま会議室の中へと入った。
もしかしたら変に思われたかもしれないけど、原因は本人にあるのだから許して欲しい。
中に入ると程なくしてエンデヴァーが現れ、今日の予定について話し始めたので轟君から何かを言われる事はなかった。
昨日と同じ様に、エンデヴァーに連れられ保須市内へとパトロールに向かう。
勿論轟君もいるけれど、顔を見る事が出来ない。
他にもサイドキックの人達がいたので、そこに紛れてなるべく近づかない様にして乗り切る事にした。
向こうもエンデヴァーがいるからなのか、こちらにあまり近付こうとはせず、その日は一言も会話する事なく過ぎていく。
丸一日パトロールをしていたけれど、今日もまたヒーロー殺しが現れる事はなくて、他に事件が起きる事もなかった。
職場体験で敵と遭遇するかもしれないと、少し気を張っていたのに、なんだか肩透かしを食らった気分だ。
遭遇したらしたで、上手く立ち回れる自身はなかったのだけれど。
そして、昨日と同じ様にホテルで夕食を済ませ、私は部屋でまた悶々と悩んでいた。
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