第4章 原作編《体育祭》
紫沫SIDE
暫くして涙も収まり落ち着きを取り戻した頃、辺りは茜色に染まろうとしていた。
「…そろそろ帰らねぇとミッドナイトが心配するか?」
「そうだね…戻る時間は言ってなかったけど、あまり遅くなるのもよくないかな」
何だか付き合っていた頃に戻ったみたいで、とても離れ難く感じてしまったけれど、お世話になっている上に心配をかけてしまっては申し訳ないので、大人しく帰ることする。
途中までは同じ道の様で、そこに着くまで話しながら向かっていた。
「"個性"の制御、早ェこと出来るようになるといいな」
「うん…放課後に相澤先生と練習してるんだけど、まだ出来なくて…」
「そういや、キャパは大丈夫なのか?」
「あ、あれからね、気を失っても仮死状態にならなくなってるみたいで。USJの時もいつもと感覚が違ってたから油断しちゃったんだけど…私あの時どうだった?」
「仮死状態にはなってねぇな。体温は低くなってたぞ」
「やっぱり。体質が変わったとかなのかなぁ?」
自分の"個性"の事なのにあれからわからない事だらけだった。
もしかしたら両親なら何か知っているかもしれないが、それを聞く事はもう叶わない。
「体質が変わってんなら良かったんじゃねェか?あれは反動にしちゃでかすぎんだろ」
「まぁ、確かに…」
そんな話をしているとすぐに目的の場所に辿り着いてしまった。
「ここからは別々だね」
「そうだな…送らねぇで平気か?」
「これでも、ヒーロー科で日々鍛えてるんだから前に比べたら強くなってると思うよ?」
冗談交じりに言った言葉だっけと、あながち間違ってはいない。
相澤先生のメニューのお陰もあり、体力と多少の筋力がついたことでお情け程度だった防衛術という名の体術は一般人相手ならば容易に勝てるまでになっていた。
「そうか。気をつけて帰れよ」
「うん、またね!」
「ああ、またな」
そして、お互い別の方向へと足を進めた時だった。
「…紫沫」
この時の私は気が緩んでいたのだと思う。
いつもは苗字だったから、今呼ばれたのは名前だったから。
何も考えずに呼ばれたから振り返っただけだったのに。
その声音が、雰囲気が、タイミングが、付き合っていた頃に何度も聞いた暗黙の了解だと、身体が勝手に反応していたなんて思わなかった。
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