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【ヒロアカ】雪恋【轟焦凍】

第4章 原作編《体育祭》


紫沫SIDE


名前を呼ばれ、振り返り、轟君と目が合って、私はごく自然に瞳を閉じていた。
そして、頬に手が伸ばされ、顔が近づいてきたのがわかり、唇が重なる。
一瞬の出来事だった。
すぐにソレは離れていき、目を見開いた。

「悪ィ、気付いたらしちまってた…」

轟君を見ると、驚いた様な顔をしていたから、きっとそんなつもりではなかったんだと思う。
それなのに、身体が勝手に動いてしまった。

「…呼び方なんて、関係なかったね」

"苗字"を呼ぶ事が合図だった訳じゃない。
きっと、お互いの存在を確かめる為の合図だったんだ。

「みてェ、だな」

そうして、今度ははっきりと。その意思を持って呼ばれた。

「紫沫…」

再び私の頬に触れた轟君の手はさっきよりも熱を持っている気がした。
そして、私はもう一度瞳を閉じる。
ゆっくりと近付いてきて、そっと重なる唇。
さっきよりも少し長いそれは、またゆっくりと離れていった。

「…次会うのは学校だな」
「…うん。また、学校で」
「ああ」

今度こそ、私達はお互いの帰路へとついた。
久しぶりに感じた唇の温もりはすぐに消える事がなくて、思わずそこに触れてしまう。

「…まだ、好きでいてくれてるのかな」

そんな言葉が口から溢れた。
離れないとは言ってくれたけど、好きだとは言われていない。
まだその気持ちが残っているのかなんて、わかるはずがなかった。
さっきのも、体が勝手に動いただけと言われればそれまでだ。
ここに来て、本当にあの行為は呪縛だなんて思ってしまった。

「私達の今の関係は友達…?」

答えてくれる人はもういないのに、そう声に出していた。
一難去ってまた一難。
この曖昧な関係をどうしたらいいのかわからないまま、気が付くと家の前に到着していた。
どれだけ悩んだところで答えが出る気配はないのだから、今はもう離れないでいてくれる事を素直に喜ぼう。
どうしたって轟君を想う気持ちは変わらないのだから。
そう自分に言い聞かせ、家の中へと入り、その日は何事もなかったかの様に睡さんの前では過ごした。
何だか気にしている様子ではあったけど、私の態度を見て深く追求する事をしないでくれたみたいだ。
やはり大人の女性は違うな、なんて都合のいい解釈をして、その日は早目にベッドへと入ったのだった。



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