第4章 原作編《体育祭》
轟SIDE
〈もう…はなれないで…〉
緑谷の声にまたしても一瞬、奴のことを忘れ炎を纏ったが、すぐに過去の記憶が頭をよぎり炎を収めた。
その時に彼女の声も聞こえた気がする。
「…轟君、お疲れ様」
今度ははっきりと聞こえてきた彼女の声に、俺は意識を覚醒させ、目を開けた。
ベッドの上に横になっていることに気付き、試合中に爆豪の攻撃によって意識を失ったのだと理解する。
声のした方を向けば、心配そうにこちらを見ている彼女の姿が目に入った。
さっき爆豪に言われた言葉が気にかかっていた為か、その表情は何だか泣いているようにも見えて、俺はそっと手を伸ばし頬に触れた。
「紫沫…泣いてんのか…?」
「…え?」
触れたそこに涙は溢れていないことを確認して、すぐに手を離した。
「…悪い。何でもねぇ」
「轟君、お疲れ様…最後、場外だったよ」
「…そうか」
負けた事に対してはそれ程悔しさはない、今はそれよりもしなければならないことがあると思っていた。
(先ずはお母さんと会って話しを、沢山話しをしないとーー…たとえ望まれてなくたって、救け出す)
そして、今目の前にいる彼女とも。
あの時は離れる事しか選択肢がないと思っていた。
離れる事で、彼女を守るのだと。
けれど、それ以外にも方法はあったのかもしれない。
それに、どんなに離れても無くならない気持ちに目を背け続けるのは限界だとも思っていた。
彼女とも、話しをしないと。
「なぁ、後で」
そう言いかけた時だった。
仕切られていたカーテンが勢いよく開かれる。
「半分野郎!!てめェフザケんなよ!!」
「爆豪君!?」
「あん時なんで炎を消しやがった!?ブッ殺すぞ!!」
今にも戦闘を始めそうな勢いの爆豪にすぐ様先生たちが駆けつけ、体を拘束し始める。
そのまま表彰式があるからと、俺も一緒に競技場へと向かう事となった。
彼女は他の生徒の元へと指示され、結局あの言葉の続きを言うことは叶わなかった。
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