第4章 原作編《体育祭》
紫沫SIDE
試合が終わり、直ぐに緑谷君はリカバリーガールの元へ運ばれ、轟君はステージを後にする。
激しい戦闘によりステージは大崩壊した為、暫く補修タイムとなった。
そんな中、隣にいた八百万さんが私の異変に気づき、優しく問いかけ背中を撫でてくれている。
「雪水さん、どうなさいましたの?」
「…っ轟君…左の、炎っ…」
「轟さんの、炎…?」
それ以上は言葉に出来なかった。
溢れる感情が思考を邪魔して上手く纏まらないし、涙ばかりが溢れ出てくる。
「丁度試合もないしさ、気晴らしに外でない?」
近くに座っていた耳郎さんも気付いていたらしく、私はその提案に無言で頷き、2人に連れ添われ競技場の外へと向かう。
その姿を、爆豪君に見られていた事に私は気付かなかった。
「2人共、本当にごめんね…いきなり泣いたりして…」
「お気になさらず。御気分はいかがですか?」
「うん、大分落ち着いてきたよ…外に連れてきてくれてありがとう」
「外に出た方が気分転換になると思ってさ」
暫くすると少し落ち着きを取り戻し、涙は止まっていた。
「…あの、先程の事、お聞きしてもよろしいですか?」
「え?」
「何故、轟さんの炎を見て涙を…?」
「…多分、嬉しかったんだと思う」
「嬉しかった?」
「訳あって、ずっと使ったとこ見てなかったから」
「そうでしたの…私達は初めてでしたわ」
「そうそう。中学の時は使ってたんだね」
「あ、いや…たまたま"個性"診断の時に見ただけで…」
「成る程ね」
「でも、それで泣いてしまうのはよっぽどですわ…もし、まだ何かありましたら私達でよければお聞かせ下さいますか?」
「…ごめん、今はまだ…」
まだ過去の話を出来る程頭の中を整理できていなかった。
その後、少し1人で考える時間が欲しくて、2人に先に観客席に戻ってもらうようお願いし、私は1人あの時の事を思い返していた。
轟君の中で一体何があって左を使ったのかはわからないけど、緑谷君の言葉がそうさせたのは間違いない。
これをキッカケに轟君の抱えているものが少しでも軽くなればなんて、他力本願だけどそう思わずにはいられなかった。
.