第4章 原作編《体育祭》
轟SIDE
その日、まだ幼かった俺はたまたま目が覚めてしまい、台所にいる母が電話をしているところを見かけた。
その時に見た母の顔は未だに鮮明に覚えている。
〈お母さん…私、ヘンなの…もうダメ。子どもたちが…日に日にあの人に似てくる…焦凍の…あの子の左側が、時折とても醜く思えてしまうの。私…もう育てられない。育てちゃダメなの…〉
〈お…母さん…?〉
俺はーー…
〈お母さんは…?〉
〈おまえに危害を加えたので病院に入れた。全く…大事な時だと言うのに…〉
〈…〉
俺は親父(こいつ)を。
〈おまえのせいだ…!〉
その時に俺は決めたんだ。
「親父をーー…」
「君の!力じゃないか!!」
〈私…焦凍君の"個性"好き!〉
何故か緑谷の言葉にダブって彼女の声が聞こえた気がした。
〈『"個性"というものは親から子へと受け継がれていきます。しかし…本当に大事なのはその繋がりではなく…自分の血肉…自分である!と認識すること。そういう意味もあって私はこう言うのさ!私が来た!ってね』〉
〈でも、ヒーローにはなりたいんでしょう?いいのよ、おまえは。血に囚われることなんかない。なりたい自分になっていいんだよ〉
いつの間にか、忘れてしまった。
〈それでも…私は轟君の"個性"が好き。それに助けてもらった。それだけは忘れないで…〉
母の言葉ーーそして、同時に聞こえた彼女がくれた言葉。
《これはーー…!?》
「使った…!」
それは自分の意思なのか、無意識だったのかわからない。
気がつくと俺は、左側に炎を纏っていた。
「勝ちてぇくせに…ちくしょう…敵に塩送るなんて、どっちがフザけてるって話だ…俺だって、ヒーローに…!!」
「ーー…!!」
「焦凍ォオオオ!!!やっと己を受け入れたか!そうだ!!良いぞ!!ここからがお前の始まり!!俺の血をもって、俺を超えて行き…俺の野望をお前が果たせ!!」
《エンデヴァーさん急に"激励"…か?親バカなのね》
遠くの方で誰かが叫んでいたが、この時の俺にはそんなのは聞こえなかった。
ただ、目の前の相手に勝ちたい。勝って、ヒーローに…それだけを考えていた。
一筋の雫が頬を伝った。
「……」
「凄…」
「何笑ってんだよ。その怪我で…この状況でお前…イカレてるよ。どうなっても知らねぇぞ」
これが俺の全力。
「緑谷、ありがとな」
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