第4章 原作編《体育祭》
轟SIDE
〈いいのよ。おまえはーー…〉
この先を、いつの間にか忘れてしまった。
「何の…つもりだ。全力…?クソ親父に金でも握らされたか…?イラつくな…!」
遠距離からではなくもう一度近距離で攻撃するべく、俺は緑谷に向かって駆け出す。
(右足が上がった瞬間に…こいつ)
緑谷の既にボロボロな右手で握った拳が、俺の鳩尾へと入った。
《モロだぁーー生々しいの入ったあ!!》
「ぐぅう!!」
「はっ…くっ…ゲホッ」
緑谷は既にあるダメージのせいで呻き声を上げていた。
俺はすっ飛ばされるも威力は今までのものに比べると格段に落ちていた為、すぐに立ち上がりそのまま氷結を放つ。
「氷の勢いも弱まってる」
しかしそれは避けられてしまうが、もう一度すかさず氷結を繰り出す。
「ぐっ…ううっ」
今度は、親指で口を使って弾き打ち消された。
「何でそこまで…」
「期待に応えたいんだ…!笑って、応えられるような…カッコイイ人(ヒーロー)に…なりたいんだ」
その言葉に何故か母の声が聞こえた気がした。
〈焦凍…〉
昔の記憶が頭の中をよぎって、俺の意識を鈍らせた。
「だから、全力で!やってんだ、皆!」
その隙に緑谷からの一撃をくらってしまう。
「君の境遇も君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない…でも…全力も出さないで一番になって完全否定なんて、フザけるなって今は思ってる!」
再び、昔の記憶が蘇る。
〈立て。こんなもので倒れていてはオールマイトはおろか雑魚敵にすら…〉
〈やめて下さい!まだ五つですよ…〉
〈もう五つだ!邪魔するな!!〉
なんでこんな時に昔の記憶なんかを思い出すんだ。
「うるせえ……」
右半身に降りていた霜が徐々にその範囲を広げて俺の身体を侵食していく。
〈嫌だよお母さん…僕…僕、お父さんみたいになりたくない。お母さんをいじめる人なんてなりたくない〉
〈…でも、ヒーローにはなりたいんでしょ?いいのよ、おまえはーー…強く想う"将来(ビジョン)"があるならーー…〉
辛い稽古に耐えられず泣いていた幼い日の俺を、優しく慰めてくれた母の記憶だ。
「だから…僕が勝つ!!君を超えてっ!!」
またしても、緑谷に一撃をくらってしまう。
〈焦凍、見るな。兄さん(アレ)らはおまえとは違う世界の人間だ〉
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