第2章 中学生編
紫沫SIDE
チャイムギリギリになんとか間に合ったけど。
走ってきたせいで荒くなっている呼吸を、椅子に腰を下ろして落ち着かせようと小さく深呼吸を繰り返した。
(何か大事なことを忘れているような…)
間に合ったことに安堵して一息ついたところで。
彼の席を通る際に挨拶と改めてお礼をしようとしていた事を思い出した。
もう席についてしまったし、教室の中の生徒もみんな席についているし、ここでまた立ち上がるのは勇気がいる。
慌てていたあまり完全にタイミングを見失ってしまった。
どうしたものかと控えめに彼の方に視線を向ければ、バッチリと目があって。
このまま視線を逸らすのも悪い気がして今がチャンスだと、思い切って声をかけてみることにした。
「あ…おはよう」
「…あぁ、おはよ」
言えた!
しかも返してくれた!!
挨拶をするなんてそこまで特別なことではないのに。
それだけで私は舞い上がって、その勢いのまま次の言葉を発していた。
「昨日は本当にありがとう。なんだか沢山迷惑かけてしまったみたいで、何かお礼がしたいんだけど…」
そこまで言ってから何も決まらなかったお礼のことを思い出して。
それ以上言葉が続かなくなってしまう。
「そんな気にすることじゃねぇけど…」
「あ、うん…」
昨日と同じ言葉が返ってきたことに、これ以上こちらの気持ちを押し付けるべきではないのかなと項垂れていると。
「…昼休み飲み物奢ってくれ」
「…うん!」
まさか彼から提案してくれるとは思っても見なくて、沈みかけていた私の気持ちは一気に急上昇した。
その後すぐに先生が入ってきたのでそれ以上会話は続かなかったけれど、無事お礼をする事が出来るとホッと胸を撫で下した。
(華純にはああ言っちゃったけど、轟君からそういってくれたんだし、これでいいよね)
あれだけ2人で色々と考えていたのに、結局のところ幼馴染の第一候補が採用となった。
図らずもお昼休みに声をかけるきっかけが出来た事に気付いた私は、その時が待ち遠しくて堪らなくて。
(やばい、こんなにお昼休みが楽しみなの初めてだ!)
頭の中はお昼休みのことでいっぱいになり、午前中の授業内容が殆ど入ってこなかったのは言うまでもない。
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