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【ヒロアカ】雪恋【轟焦凍】

第4章 原作編《体育祭》


轟SIDE


昼休憩が終わり、最終種目であるトーナメント戦の組み合わせが決まった所でレクリエーションが始まった。
トーナメント進出者は自由参加と言われたので、競技場の外へ行くと人気のない場所を見つけた。
そこで過ごす事に決めた俺はその場に屈んで視線を下へと降ろす。

(緑谷と当たるのは二回戦…)

組み合わせの結果を見て、意外と早くに合間見える事になったなと、一層負けられない気持ちと勝たなくてはならないという想いが俺の中で膨らみ続けている。
これは親父を見返す為の機会の一つにしか過ぎないが、その中でもとても大きな意味を持つ戦いになるであろう事を感じていた。
だからこそ、今は精神を研ぎ澄ます事に集中させていた。
暫くそうしていると、下に向けていた視線の中にキラキラしたものが映った。
それはもうずっと見る事はなく、記憶の中でも思い返す事をやめていたあの光景。
思わず顔を上げ、その光景が今目の前に広がっている事に少し驚き、意識を奪われる。

「紫沫…」

自然と俺はその名を口にしていた。
その光景に心が少しだけ和らいだ気がして、気付かぬ間に緊張していたことを自覚した。
精神を研ぎ澄ませていたつもりが気を張り続けていたらしい。
しかし、何故今ここでこの光景が…とそこまで考えて、誰かの声が耳を掠めた。声のする方へ向かうと、顔を伏せしゃがみ込んでいる姿が目に入る。
顔は見えないが、それが誰かなのは見なくてもわかっていた。

(紫沫…)

もう一度、今度は心の中でその名を呼んだ。
先程のはやはり思った通りのモノで、何故あんな事をしたのかわからないけれど、そのお陰で少し気分が落ち着いたのは確かだった。
僅かではあるが肩が震え泣いている事がわかった。
それを見た俺は何の躊躇もなく震える肩を抱き締める。
あれだけ離れる事に固執していたのに、こうもあっさり触れてしまう自分にそろそろこの衝動を見ないフリするのは限界かもしれないと思った。
そして、そっと口を耳元に寄せ、

「ありがとう」

小さく、そう告げた。
震えは止まっていなかったが、すぐに離れその場を去った。
今の俺にはやり遂げなければならない事がある。それを成し遂げる為に今はこれ以上ここにいる事は出来ない。
そう、思ったのだ。
トーナメント戦で成すべき事の決意を新たに、覚悟を決め、俺は歩みを進めた。


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