第1章 始業式の日
「もな、学校の先生が来てるんだけど...入っても良い?」
聞き慣れた母の声がドアの向こうからする。
「誰が来てるの?」
少しだけ布団から顔を出して尋ねた。
正直、どんな人だろうとここで会うのは嫌だったから、断るつもりでいた。
私が母に尋ねてから、少しの間も空くことがなく、返事はすぐに返ってきた。
「今年から、もなさんの通う白石高校の養護教諭を務めます、伊野尾です」
ドア越しに聞こえた声は、男の人の声だった。
でも、ゴツい感じの太い声ではなくて、私の全くの想像でしかないが柔らかい優しそうな声色をしていた。
あんまり男の人と、しかもこの格好で会うのは嫌だったけど、どうしても顔だけ見てみたくて、ベッドから降りて恐る恐るドアを開ける。
母ともう一人。
男の人?が立っていた。
中性的な顔立ちで、身長とか声でやっと男の人だと確信できるが、顔だけだと、本当にどちらにでも見える。
髪は濃い茶髪で、ふわふわとした髪型をしていた。
例えるならば、きのこが一番近いけど、とりあえずふわふわした髪型。
「初めまして、もなさん」
その顔に思わず見とれてしまっていると、その先生は私に向かって優しく微笑み、そう言った。