第1章 始業式の日
伊野尾先生の身体が私のほうに勢いよく倒れてきて、思わず目を閉じるが、なにも衝撃はこない。
ゆっくり目を開けると、ベッドに倒れ込んでいたみたいで、目の前に心配そうな伊野尾先生の顔と天井が見えた。
両サイドには伊野尾先生の手。
分かりやすく言うと、押し倒されたみたいな体制になっていて、今私はとてもドキドキしている。
事故とはいえ、なんだか少し恥ずかしい。
「ごめん、大丈夫?」
伊野尾先生はハッと我に返ったように、手をどけると、私の背中の下に手を入れて、もう片方の手は私の手を軽く握って、私の身体を起こした。
その不慮の事故の衝撃の余韻で、本当に身体になんの力もいれていなかったから、伊野尾先生に身体を起こされたときに、思わず伊野尾先生に寄りかかってしまった。
甘い匂いがした。
少しして、伊野尾先生は私の肩を優しく掴むと、寄りかかっていた私の身体を離した。
「ごめん、大丈夫だった?」
私が小さく頷くと、安心したような顔を浮かべた。
「悪ふざけもほどほどにしないとね。先生もうすぐ会議あるから、そろそろ帰りなよ?」
私はまた小さく頷いて立ち上がる。
「さようなら」
そう言って礼をすると、伊野尾先生は微笑みながら私に向かってひらひらと手を振った。