第1章 始業式の日
「もなちゃん、2年生は入学式までに帰るんだよ?」
ひとまず1日を終えて、特になにをするわけでもなく、ベッドに寝転がってぼーっとしていると、伊野尾先生が私に声をかけた。
首だけ少し起こして伊野尾先生のほうを見ると、先生は机に向かってなにか作業をしていたようで、丸メガネをかけて鉛筆を手にしたまま、私のほうを見ていた。
「伊野尾先生、老眼ですか?」
尋ねてみると、驚いたようなショックを感じているような、複雑な表情を浮かべていた。
だが、どう見てもプラスには捉えられない表情ではあった。
「一応おしゃれのつもりでかけてたんだけど、もなちゃんひどい」
首だけこちらへ向けていたのを椅子を回転させて身体ごと私のほうに向けた。
「私は絶対悪くないです、伊野尾先生のメガネをかけるタイミングがややこしいんです」
「先生に対して口答えするとはだいぶ生意気だなぁ、もなちゃんは」
そう言って伊野尾先生はキャスター付きの椅子を滑らせて、シャーっと私のベッドの横まで来る。
さすがに私も身体を起こした。
「丸メガネは似合ってますけどかけるタイミングだいぶ間違えてます」
「そんな生意気なこと言う口はどれだー?」
伊野尾先生はそう言って、私の両頬を片手でサンドイッチみたいにキュッと挟む。
私が払おうとしても伊野尾先生はもう片方の手で掴もうとしたりして、わちゃわちゃしている間に伊野尾先生が私と同じようにベッドに乗ってきた。
そしてさっきと同じ抗争を続けていると、伊野尾先生が体制を崩し私のほうへと倒れこんできて、私は反射的に目をつぶった。