第1章 始業式の日
私のクラスがある階まで行くと、まだ休み時間だというのに、廊下には誰もいなかった。
だけど、各教室の中はそれぞれざわざわとしていて、中で自由に喋っているようだった。
「3組だから、ここだね。中までは着いていかなくて大丈夫?」
私は頷くと、ありがとうございましたと今度こそはお辞儀をして、教室のドアを開けた。
授業中はどれだけ先生が注意しても聞こえていないくせに、もしくは聞こえないふりをするのに、こういうドアを開けたりする音だけにはみんな敏感だ。
あんなに騒がしかった教室が一斉に静かになって、みんなの視線が私に向けられる。
やっぱり、伊野尾先生に着いてきてもらえば良かった。
急いで自分の席につこうとするけど、足が動かない。
こんなことになるなら来なければ良かった。
そんなことを考えていると、私の後ろから、誰かが入ってきた。
「あれ、もう朝学活の時間だけど、みんな座んなくて良いの?」
聞いたことのある声。
反射的に振り返っていた。
後ろにいた“彼”は、少し驚いたように身体を退け反らせると、びっくりしたと声を漏らす。
「ご、ごめんなさい」
謝って、その彼の顔を見る。
やっぱり、山田くんだった。
1年前もこうやって助けてもらって、また助けてもらうことになるとは思わなかった。
けど、おかげでクラスメイトの視線は逸れて、さっきの苦しくなるような静寂よりかは少し騒がしくなった。
言葉で言い表せないくらい、とても助かった。
「じゃあ、そろそろ先生来るだろうし、俺たちも座ろっか」
山田くんはまた無邪気な笑顔を浮かべてから、自らの席に向かった。
私もそれに続いて、空いている最後の席に座った。
先生が来たのは、そのすぐあとだった。