第14章 Orecchini【アバッキオ】
「またやってんのか。毎日毎日よく飽きねえよな」
激しく罵り合う年下2人を見遣って、彼女にそう声をかけたのはアバッキオだ。
途端、チヒロの心臓が跳ねる。
いけない、態度に出さないようにしなくては。
「そうね。まあ…あの2人の場合は、"喧嘩するほど仲が良い"ってヤツじゃあないかしら」
「ハッ、毎度大声聞かされるこっちの身にもなれってんだ」
ため息混じりのその声に思わず笑ってしまう。
そんな彼女の様子を、ほんの少し口角を上げて見ていたアバッキオがふと目を留めた。
「お前…それ」
彼の視線の先にあるのは例のピアス。
「あッ、これ?さっき露店を出してる作家さんから買ったの。その、なんか気に入っちゃって」
どうしよう。どう思われているんだろう。変だって思われていない?
さっきは気づいて欲しいと思っていた筈なのに、じっと見られて気恥ずかしくなったチヒロは、早口に言うと視線を彷徨わせる。
「どういう風に見えるか分からないけど、私はすごく…好きな色だったから。それで──」
「いいじゃあねーか。似合ってる」
何気なく放たれたその一言に、瞬間、時が止まった。
「…えっ」
「何つーか、"お前"って感じの色だな。造りも良いしよ」
アバッキオはそう言って、柔らかく微笑んだ。
…一見するとそうとは分からないくらいに、ではあったけれど、彼女には充分すぎる。
褒めてくれた。
彼が、アバッキオが、褒めてくれた。
「似合ってる。」
そのたった一言がじんわり胸に溶けて、身体中に拡がっていく。
嬉しい。すごく。
そっと耳のピアスに手をやる。
指に触れたそれはひんやりと、でも温かく、自分を後押ししてくれるような感じがした。
ずっとずっと大切にしよう。
緩む頬を抑えながら、そう決めた。
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