第10章 fallita【ブチャラティ】
呆然と虚空を見つめる私に、ミスタがそっと声をかけた。
「あァ〜〜…オイ、チヒロ。あんまり思い詰めんなよ?真面目なのはお前のいいトコだけどよ、お前はすーぐ自分を悪モンにするフシがあっからなァ」
「で、も」
「"でも"も"だって"もねーんだよッ!とにかく、もう今回の任務は完了したんだ。あとはさっさと身体治しちまえ、なッ」
わしわし、とミスタの大きな手が私の頭を撫でる。その温かさに思わず涙が溢れそうになって、慌てて堪えた。
ダメだ、泣くな、泣くな、泣くな。
ただでさえ彼を振り回しているのに、これ以上心配をかけたくない。
しばらくして、医師がやって来た後もミスタは私の様子を見ていたが、診察が終わると「そろそろアジトに戻る」と言って席を立った。
きっと、長時間の面会は私の身体に負担になると気を遣ってくれたのだろう。
優しさに、どこまでも申し訳なさばかりが募る。
「ミスタ。あの……本当にありがとう。退院できたら、美味しいものご馳走するわ」
病室の扉に手をかける彼にそう声をかけた。
もっと気の利いた事を言いたかったけれど、今の私にはこれが精一杯だった。
背中越しに振り返ったミスタは、おう、楽しみにしてるぜ、と笑って、思い出したように一言付け加えた。
「ああ、それからよォ、もう少ししたらブチャラティがここに来るってよ」
それまで大人しくしてろよォ、という言葉を残して、足音は遠くなっていく。
─────扉の反対側で、私はひとり青ざめた。