第6章 Farfalla【?】
「えーと、花、花…」
約束通り蝶を掌に載せ、手頃な行き先を探し歩く。
だが彼の頭の中は、花よりも先程出会った女性のことで一杯だ。
ほんと、優しい人だったなあ〜。あんな素敵な人がいるなんて。ツイてないと思ったけど、ラッキーだったのかもしれないな。
あれ?でもあの人、どこかで見た事があるような……どこでだっけ?
さっきの道を通ったら、また会えるだろうか?
…あッ!しまった、せめて名前を聞いておくんだった〜ッ!これじゃ探しようもないじゃあないかッ!あああ〜〜ッ、どうしてぼくはいつもこうなんだ…!
それだけ惚けてしまっていたと言えばそれまでなのだが、毎度の事ながら自身の抜けっぷりに辟易する。
はあ、とため息をついたその時、程よい大きさの花弁が目に入った。
「よかった、ほら…ここに止まりなよ。もう道端になんか落っこちるなよ」
そっと蝶を花に乗せてやると、弱々しいながらもしっかりと花芯に掴まる様子を見せた。
これでよし。
少年が満足気に微笑んでくるりと花に背を向けたその瞬間、電話の着信音が鳴り響いた。
─────── 彼の口から。
「とおるるるるるるん」
END