第5章 Follia【フーゴ】
貴女のその美しい、細い手首。強く握れば今にも折れてしまいそうなそれを乱暴に捉えてソファへ沈める。
ああ、組み敷かれて驚きに見開かれた瞳もまた美しい。そこに僕が、僕だけが映っているのが最高だ。
今度は優しく口付けようとしたが彼女は顔を背けて抵抗し、その様に無性に腹が立つ。
貴女は僕のものだ、僕を愛するべきなんだ。
小さな顎を掴んで無理矢理にこちらを向かせ問いかける。
「ねえチヒロ、僕のことを好きですよね?好きだよな?好きだと言えよ!!!」
すっかり怯え、恐怖で涙を滲ませる表情に、歪んだ征服欲が満たされていくのを感じる。
僕のものだ。彼女を見下ろしながら、僕はどうしようもなく絶望して、どうしようもなく興奮している。
「フーゴ、フーゴ、大丈夫?」
はたと目を開けると、そこは例のソファの上。腰掛けたまま寝入ってしまったらしい。
目の前にはチヒロが屈んで顔を覗き込んでいる。
「なんだか、苦しそうにしていたわ。嫌な夢でも見たの?」
「…いえ、平気です」
嫌な夢だなんて、むしろ────…いや。
チヒロ、貴女はちっとも気付いていないんだろうけれど、いつもいつもいつもいつも考えている。君を僕のものにすることを。
力尽くでだって、泣いて嫌がったって、どうしたっていいって気にさえなる。
だけど、僕が1番欲しいのは貴女の心だ。
この最低な妄想を現実のものにしたら、それは永遠に手に入らない。
分かっている。分かっているんだ。
「フーゴ、もし何か悩みとか…困っている事があるなら、力になるから。何だって言ってね、いつでも」
「ええ…ありがとうございます」
だから今日もこうやって、何でもないふりをして答えるんだ。
ああ、この最低な僕に、どうかそんな顔で微笑まないでくれ。
END