第1章 鶏のから揚げ
「あ…」
「どうしたんすか、大将?」
「どうしたの、あにき」
今日は鉄も家で夕飯を食べることになっており、鉄に妹の相手を任せて支度をしようとしたら足りない材料があることに気づいた。
「あー…なんでもねぇよ。ほら、危ないからこっちに来るなよ」
「はーい」
「なにかあったら呼んでくださいっす!」
こうなったら仕方がない。あいつに足りねぇもん頼むか…
「お邪魔します。鬼龍くん、いる?」
「あ…もうバイトから帰ったのか、水瀬」
「うん。あとこれもうなくなってた調味料と使いそうな食材買ってきたよ」
スマホを出したときにメールを出そうしてた奴が来てしまった。しかも渡された買い物バックの中には俺が頼もうとしていたものがしっかり入っていた。
「ありがとな。おかげで助かった」
「いえいえ。それじゃあ…」
渡すだけ渡して帰ろうとした奴の動きを止めたのは鉄に相手してもらってたはずの妹だった。
「姉ちゃん! おかえり!」
「ただいま、ちはるちゃん」
「あれ、大将、妹さんもう一人いらっしゃったんすか?」
「妹じゃなくて幼馴染な。あと俺と同い年だ」
「え、えぇぇ!?」
まあ、鉄が驚くのも無理はない。俺のもう一人の幼馴染は高3だけど身長は150もないし、童顔だから歳を言うと大体驚かれる。あと本人も慣れてしまったものだから…
「はじめまして、夢ノ咲学院普通科3年の水瀬 あやです。うちの幼馴染がいつもお世話になってます」
普通に笑顔で挨拶してしまうのだ。
「水瀬、今日も食ってくだろ?」
「え? いいの?」
「なんで首傾げてんだよ」
「今日は南雲くんが来るからいない方がいいと思ってたから」
「姉ちゃん、家で食べねぇの?」
中学から一人暮らししてる水瀬はうちの親から言われたこともあって、飯の時は家に来て食べている。たまに友達やばあちゃんとかが泊まりに来た時は来ないが、ほぼ毎日家で一緒に食卓を囲んでいる。
「俺のことなんて気にしなくて大丈夫っすよ!?」
「こいつらもこう言ってるし、決定な」
「それじゃあ、お邪魔させもらおうかな」
そう言って自分の荷物を水瀬が下すと、一緒に台所に入って夕飯の支度もしてくれた。