第5章 ~石田三成~ end. 【後編】
その後ろから少し遅れて、信長様がやってきて声をかけてきた。
「若君だそうだな、きょうこ。よくやった」
冷静に響く低い声。
だけどきっと、私だけじゃない。秀吉さんも気付いていた。
信長様の声の震えに。
その声を聞いて、一段と秀吉さんの声が荒ぶった。
「きょうこすまない!本当にすまない!!!」
「三成くん……いえ、我が殿は……」
だけど一番声が震えていたのは私だ……
「う……うっ…………」
「見苦しいぞ!秀吉っ!」
酷い嗚咽で話せるような状態じゃない秀吉さんを、信長様が叱責した。
「三成は……夜襲で……俺を庇い……すまない!きょうこ本当にっっ……!!!」
「きょうこ……すまなかった……」
信長様まで……私に頭を下げてきた……
この時代の命は
軽い……
解っていたはずだ。
そう……一瞬で……
散っていく……
だけど……私はこの時代で生きていく事を決めたんだ……
「我が殿は……務めを全うしたのですね……」
そう。彼の……三成くんの本当の望みは、秀吉さんの役に立つことだ……
きっと三成くんは、後悔なんてしていない……
「この子を……若君を……」
私は、胸に抱いていた産まれたばかりの子を、隣にいた女中に預けた。そして……
「秀吉様に……抱いてもらって下さい」
はっきりとそう言うと
「奥方様!?秀吉様は、あのように血に濡れて……!」
「いえ。抱いて下さい。若君の名は“佐吉”です」
その名を聞いて、秀吉さんが顔を上げた。