第9章 それぞれの明日へ
ロジャー海賊団がグランドラインを制覇した。
その一報が世界中を駆け巡ったのは、ノーバ島の一件から半年が経とうとした頃だった。フレイアはニュースより早く、普段より賑やかだった海の声を聞いてそれを知り、飛び回って喜んだ。
白ひげ海賊団はそんなフレイアを見て頬を緩めたが、それは同時に、1年半程前に加わった末っ子との別れであるということも全員が理解していた。
だからこそ……
「今更あっさり可愛い妹を返すと思ったか? こっちも海賊だぜ?」
こうなるのは道理だった。
事の発端は、エルトンが帰り支度を始めたフレイアの邪魔をし始めたことだった。
「嫌だ」
「嫌だって言われても。私は元々ロジャー海賊団のクルーだし」
「何でだよ! おれ達の妹になったじゃん!」
「それはそれでしょ」
「いーーーやーーーだーーー」
「何を騒いでんだよい」
大声で言い争う2人に呆れながらマルコがフレイアの使っていた個室に入る。すると味方を見つけたとばかりにエルトンが彼に飛び付いた。
「な、マルコもフレイアのこと気に入ってるよな」
「いきなり何だよ……」
「エルが私のこと返したくないって駄々捏ねてるの。マルコからも言ってやって」
やれやれという様子でフレイアがそう言うと、マルコは少し考える素振りを見せた後、珍しく悪戯っ子のような顔で笑った。
「確かに一度懐に入れた宝を素直に返してやるのは海賊らしくないねェ」
「だろ!? 流石マルコ! わかってる〜」
「ちょっとマルコ」
「じゃあ、こうしようぜ!」
食い下がるフレイアに対してエルトンがビシッと指を向けた。
「隊長会議で議題にあげて、可決されたら一戦交える」
「それ絶対に可決されるやつじゃない!!!」
面白いこと大好きな人間達がこの機会を逃すとは思えない。しかし、マルコという味方を得てスキップでもしそうなエルトンを止めることは、フレイアにはまだ荷が重かった。
かくして、家族を賭けた戦いは始まったのであった。