第19章 月花
御殿へ向かう道を二人は手を繋ぎ歩いていた。夜の大通りは静かで、砂利を踏みしめる音が響く。
光秀は月を見上げた後、ふと口にした。
「さえり……月が綺麗ですね」
さえりは心底驚き、光秀を見つめたまま、その場に立ちすくんだ。光秀も足を止める。
「な、なんで……」
その言葉の裏の意味を知っているはずがない。ないのに。何故。
「何かの暗号のようなものだろう?」
光秀がさえりを見つめる。
「それも、俺への」
的確な指摘に、秘かにI love youを伝えたさえりは頬を染めた。
「その表情を見るに……意味は、愛してる、かな」
さえりはヘナヘナとその場へ座り込む。光秀も一緒に座り込んだ。
勝てない。逆立ちしても、この人には、一生
「違ったか?」
「違いません……」
さえりは繋いでいた手を両手で包み込み、光秀を見つめ、改めて想いを伝えた。
「貴方と見る月だから」
「それが答え方か」
「はい」
「洒落ているな、お前の居た……所は」
花冠が風になびく。
さっきまでさえりの手首を拘束していた花冠は本来の定位置へと形を変え、さえりの髪を彩っていた。
光秀はさえりの頬にそっと触れた。
「お前と見る月は最高だ。これからもずっと、一緒に見ていこう」
さえりは光秀の手に自分の手を重ねる。
「はい。ずっと、一緒に」
唇がそっと触れあい、月に照された影がひとつになる。
二人は互いに翻弄されながら生きていく幸せを噛みしめた――