第16章 密会
あ、まただ……
安土城のある小部屋から出ようとして、さえりは外から聞こえてきた会話に足を止めた。
「明智殿がまた城下で怪しい人物と会っていたらしい」
「俺も聞いた。金銭授受もあったとか」
「さえり姫様と懇意にしていたから、大人しくなるのかと思えば」
「姫様をも利用しているんじゃないのか」
「あり得るな。だが最近は姫様も愛想を尽かしているらしいぞ」
好き勝手な噂話をしながら、声は遠ざかっていった。
「違うのに……」
さえりは俯いて唇を噛んだ。
自分の胸元に手を当てる。
光秀に沢山付けられたはずの紅い花びらは、薄くなり消えかけていた。
ずっと消えなければいいのに、と思う。
さえりは暫くその場を動けずにいた。