第15章 欲しいもの
さえりは息を切らしながら光秀の御殿へ到着すると、真っ先に光秀の部屋へ向かった。
「光秀さん!」
「なんだ、討ち入りか?」
「違います!」
慌てて光秀の前に座り、息を整える。
「あ、あの、光秀さん。昨日の、事なんですけど」
「ああ」
光秀は立ち上がった。
「支度をしろ、出掛けるぞ」
「えっ」
「俺の時間が欲しいのだろう?」
「!」
さえりは思い出した。時間が欲しいと言った事、独り占めしたいと言った事を。
「何だ、忘れていたのか?」
「い、いえ!」
慌てて首を横に振る。
「何処にも出掛けずに一日中お前を抱くというのでも俺は構わないが」
「すぐに支度します!」
さえりは急いで立ち上がり支度をしはじめる。ふと信長から伝言を言付かっていたことを思い出した。
「そう言えば、信長様が、書簡は問題なかったから今日は城に来るなって」
「そうか」
ふっと光秀は笑う。仕事を早々に終わらせてさえりの為に時間を空けた事はバレバレのようだ。恐らく気づいていないのはさえりだけだろう。
「何処へ行くんですか?」
「秘密の場所だ」
光秀には希に、人知れず秘密裏に行く場所があった。
どうしても息苦しくなった時に息をする場所。
光秀が、光秀であるために。
「今まで、誰も連れて行った事はない。お前が初めてだ」
ぱぁあ、とさえりの顔が明るくなる。
「はい!」
満面の笑みを浮かべる。
そう言えば、二人で遠出したことは今までなかった。
初めてのデート。心が浮き立つ。
「では行くか」
手を繋ぎ、御殿を出る。
二人は馬に乗り、平原を颯爽と駆けていったのだった。