第9章 奉仕と約束
光秀はさえりの腕の拘束を解き、抱き寄せた。先程までの、さえりのいじらしさが頭をよぎる。
無理やりから始まった関係。今ではお互いを深く求め合い、光秀の命令をさえりは恥ずかしがりながらも受け入れる。
光秀はさえりが愛しくて、愛しすぎて、強く抱きしめた。
ふと不安になる。
生きにくいこの時代で、どれだけお前の側に居てやれるだろうか。
ぐっと抱きしめる腕に、より力を込めた。
「光秀さん……?」
その仕種に光秀の不安を感じ取ったのか、さえりが心配そうに聞いてきた。
こんな時、さえりは鋭くて困る。いつもは平和ボケした顔でのほほんとしているのに。
誤魔化せば良いのに、思わず本心がこぼれ落ちる。
「もし、万が一、俺が……」
「光秀さん!」
さえりが叫ぶように名前を呼び、言葉を遮った。
「そんなこと、言わないで……」
まだ、何も肝心な事は言っていない。が、さえりは察したようだ。
「共に生きる覚悟を決めたじゃないですか」
さえりが光秀の胸に顔を埋める。
「ずっと……側に居て……」
さえりは今にも泣きそうだ。光秀はさえりを抱き起こし、その表情を見つめた。
違う。そんな泣き顔を見たいんじゃない
俺が見たいのは……
「悪かった」
光秀はさえりを再び強く抱きしめた。さえりの頭を自分の胸へと引き寄せる。
いつか、万が一の話はしなければならないかもしれない。
だが、今は。
「側にいる」
この先、どうなるかなんて誰にもわからない。
だからこそ。
光秀は切ない約束を口にした。