第8章 怒り
朝、すっきりと目覚めたさえりは最後の仕上げをし、午後には無事に着物を届ける事ができた。
客先から戻ってきたさえりは、文机に向かう光秀に声をかけた。
「光秀さん、昨日は心配をかけてしまって、ごめんなさい」
さえりは光秀に謝った。
「ああ」
光秀は筆を置き、さえりを見た。
「無理はするな」
「はい」
さえりは素直に頷いた。
「それから」
光秀の声がワントーン下がる。
「昨夜は選ばせてやったが、今後同じような事があれば、問答無用で朝まで抱くから覚悟しておけ」
「……」
さえりは冷や汗をかいた。
光秀さんが、怒っている。とても静かに。
「もうしません……! すみませんでした」
「そうか」
光秀は口許を少し緩めると、筆を取りまた文机に向かった。
光秀さんはこんな怒り方をするんだ……
怒鳴られたほうが、どれだけ気が楽な事だろう。
もう二度と納期ギリギリに作業しない……!
心に誓うさえりであった。