第32章 あなたがこの世に生を受けた日 <後編>
「さえり。色々と考えてくれたのだな。とても驚いた。ありがとう」
今度は正面から抱きしめられ、耳に直接光秀の声が注ぎ込まれる。心からの感謝の言葉。さえりにとって、何よりのお返しだ。
「光秀さんも、素敵なお返事ありがとうございます」
さえりも光秀を抱きしめ返した。
「驚いたら言うことを聞くと約束をしていたな。何がいい? 何でもいいぞ」
おでこをコツンと合わせて光秀が微笑んだ。さえりは少し考えた後、口を開く。
「じゃあ、来年の誕生日もお祝いさせてください」
「そんなことでいいのか」
光秀は目を丸くして驚いていた。それがまた嬉しくて、さえりはクスリと笑う。
「出来れば、楽しみにして貰えると嬉しいです」
「わかった。お前と過ごす来年の誕生日、楽しみにしていよう」
光秀がさえりの髪を撫でた。
「それから、お前の誕生日も楽しみにしておけ。驚かされるだけというのは性に合っていないのでな」
ニヤリと、光秀が悪巧み……いや、悪戯っぽく笑った。一体どんな事を考えているのか。光秀の事だからきっと意地悪で甘い誕生日になるのだろう。
「はい」
ドキドキしながら頷くと、くす、と笑った光秀がさえりの唇を奪う。徐々に口づけは深くなっていき、また今日も甘い夜が訪れる――そんな予感がして、期待しながらさえりは口づけを受け止めた。