第7章 美酒
翌朝。
朝餉を運んできた女中が尋ねてくる。
「さえり様、どこか体調が優れないのですか?」
「えっ」
「それとも、お口に合いませんでしたでしょうか?」
昨日は夕餉の途中で愛し合ったため、殆んど手付かずで食事が残されていた。女中はそれを心配したらしい。
「いっ、いえ! いつも美味しく頂いてます! き、昨日はたまたまです! どこも悪くないです! 元気です!」
さえりは捲し立てた。
左様でございますか、と女中はニッコリ笑って下がっていった。
光秀はそのやりとりを可笑しそうに見つめていた。
「さえり、それでは丸わかりだぞ」
「誰のせいですか……」
さえりは恨めしそうに光秀を睨む。
「さて、誰のせいかな」
光秀は涼しい顔で答えた。
「朝餉が冷めるぞ。腹が減っているのだろう?涎が垂れているぞ」
「えっ」
慌てて口許を拭う。確かに夕餉を食べていないから、お腹は空いているけれど。
「冗談だ」
もぉ、とさえりが唸る。いつも自分ばかり翻弄されているようで悔しい。
いつか、一矢報うんだと心に誓う。
さえりは、自分がどれだけ光秀を翻弄しているかなど、知るよしもなかった。