第29章 約束
さえりが安土にやって来て数日が過ぎ、光秀との奇妙な関係が始まっていた、ある日の事。
政宗はさえりの雰囲気が以前と少し違う事を感じ取っていた。
「なぁ秀吉。最近、さえりが少し色っぽくなってきてねぇか?」
安土に来た頃には無かったはずの色香を纏い、時々憂い顔をする。
「そうか?」
軍議が終わり、解散になった広間で、帰ろうと立ち上がりかけた秀吉に話しかける。秀吉は先程まで同席していたさえりを思い浮かべたようで、考える仕草を見せた後、わからないというように首を傾げた。
「誰か好きな奴でも出来たのかもな」
政宗がニヤリと笑うと、秀吉は眉を寄せた。
「なんだと? それは何処のどいつだ!」
「知らねぇよ。そう熱くなるな。可能性の話だ」
世話好きの秀吉らしい反応に苦笑する。おおかた兄貴分にでもなったつもりでいるのだろう。
「……そうだな。さえりも大人の女性だ。好きな奴が出来ても不思議じゃないよな」
そうだなと言いながら、秀吉は納得していない表情をしていた。
「もしそれが俺ならすぐにでも応えてやるんだけどな」
さえりは周りにはいない女で、なかなか面白い。政宗は割と気に入っていた。
「お前な! 遊びでさえりを傷つけるような事はするなよ」
政宗だけではない。さえりを気に入っている男は多いようで、秀吉も例外ではなさそうだ。
「しねぇよ。俺はいつでも本気だ」
ギラリ、と獲物を狙うような目をした政宗に、秀吉が呆れながらため息をつく。
「わかってないだろ……」
その後、政宗と秀吉は立ち上がり、広間を後にした。
「一応、あいつにも釘を刺しておくか」
秀吉がぼそりと呟いていた。