第6章 大名
やはり相手にするのではなかった、と光秀は後悔した。まあ万が一、牢からあの男が出たら、全力でさえりを守れば良いだけの事だ。
地下牢から外へと出た光秀は、ふぅ、と息をつく。
外は眩しく、清々しい。
さえりに早く逢いたいと思いながら、御殿への道のりを足早に歩いて帰る。
自分の部屋に戻ると、さえりが待っていた。
「あっ光秀さん、お帰りなさい!」
さえりが駆け寄ってくる。まるで千切れんばかりに尻尾を振る仔犬のようだ
ふっ、と表情が緩む。
「さえり」
スッと右手を差し出す。
「お手」
「……はい?」
「冗談だ。ただいま」
差し出した手を翻しさえりの頭をわしゃわしゃと撫でる。さえりが居るだけでこんなにも心が浮き立つ。
「良かった」
さえりが光秀の顔を覗きこみながら微笑んだ。
「何がだ? 髪をぐしゃぐしゃにされて喜んでいるのか」
「違います! ……だって光秀さん、帰ってきた直後は少し厳しい顔をしてたから」
「……」
さえりに見抜かれるとは。
昔からの癖で、ほぼ無意識に本音を隠してしまう。それが自分の持ち味であり、武器でもある。
さえりの前では少し緩むと言うことか。
「鋭いな」
「どれだけ光秀さんの事を見てると思ってるんですか」
少し照れたようにさえりが言う。
だからといって無駄に心配させる必要はない。
「実は、信長様への賄賂が確保出来なくて、どうしたものかと思案していたのだ」
星形の甘い賄賂、金平糖の事だ。
そんなことで……? と少し怪訝な表情を見せるさえり。
「大事な事だ。お前にちょっかい出させない為のな。お前は俺のものだからな」
最後の一言でさえりの頬が染まる。
他愛ない。他愛なくて……そして愛しい。
光秀はさえりをぎゅっと抱きしめた。さえりが抱きしめ返してくる。このままさえりをむちゃくちゃに抱きたくなった。
さえりの首筋に舌を這わせる。
「あっ……」
さえりが声を漏らした。
「まだ外が、明るいですけど」
「気にするな」
そのまま二人はもつれあっていった。