第25章 ただいま
1ヶ月の約束を少し過ぎてしまった。
長旅から安土に戻ってきた光秀は、さえりに会えると思うと自然に足早になっていた。
久方ぶりで、心が浮き立つ。
今は夕刻だが、真っ先に御殿へと向かう。
本来ならば一番に信長様へ報告するのが普通だが、帰って来たのは夜中という事にして、信長様へは明日報告すれば良いのだ。
などと少々自分に言い訳をする。
さえりには事前に文で今日帰る事を伝えておいたから、必ず御殿で待っているはずだ。
「九兵衛。今帰った。さえりは」
「お帰りなさいませ。部屋に」
含み笑いをする九兵衛を尻目に部屋へと急ぐ。思ったとおりさえりが、見えない尻尾を振りながら待ちかねていた。
「ただいま」
「光秀さん! お帰りなさ……んっ」
さえりの言葉を最後まで聞くことなく、手を引いてさえりがよろけた所を抱き寄せ、口づける。柔かな唇を存分に堪能した後、強引にさえりの唇を割り、舌先をねじ込む。
「ん……っ、ふ……」
さえりの吐息でさえも光秀を煽る。深く口づけたままさえりを畳に押し倒しながら、袷に手を差し込もうとすると、さえりの手に阻まれた。
「待っ、て……光秀さ……」
口づけの合間にさえりが訴える。普段ならそろそろさえりの力が抜けてもいい頃だがと首を傾げる。
「何を待つ事がある?」
「あ、あの……ん……ちょっ……と……」
深い口づけの合間に途切れ途切れ言葉を発して抵抗しようとするさえりが可愛くて光秀がさらに意地悪をしようとしたその時。
スパン!
奥の襖が勢いよく開いた。