第23章 咳逆疫
光秀とさえりは家康の御殿で看病をしていた。
3人ともきっちり回復するまで登城は許さんと信長にお達しを出されていた。
褥で家康が眠る。熱は下がってきており、もうほとんど心配はなかった。
「良かった…」
家康の額に乗せている濡らした手拭いを替えながらさえりはホッと呟く。隣で光秀も頷き同意する。
「さえり」
光秀は振り向いたさえりの手を引き、後頭部を掴んで噛みつくように口づけた。
「んっ」
強引にさえりの唇をこじ開けるようにして舌を差し込む。
「ん、んんっ」
さえりの舌を絡めとり、強く吸う。
最初は強ばっていたさえりの身体から力が抜けていくのがわかった。
長い長い口づけの後、ようやく唇を離す。
「もう…!」
真っ赤な顔でさえりが声をあげた。その表情にうっかりすると理性が飛びそうになるのを必死で抑える。
「嘘を付いた罰に何をしてもらおうかな」
ニヤニヤと笑うとさえりは動揺した表情を見せた。
「えっでも、薬だって言って騙しましたよね?あの時お互い様だって…」
「さあな、忘れた」
「ひどい…!」
むくれるさえりが可愛くて、もう一度口づけようかと顔を近づけたその時、声がした。
「ちょっと、熱がぶり返しそうなんですけど。人の部屋で何やってんですか」
二人から視線は反らしながら、家康は不満そうな声を漏らす。
「お、起きたんだね家康! 調子はどうっ?」
「今悪化した。二人のせいで」
家康が体を起こす。
「では邪魔せず寝ておいたらどうだ」
「ここは俺の部屋です。起きようが寝ようが好きにします。そっちこそ病人の邪魔をしないで下さい」
「病人の邪魔か。言い得て妙だな」
愉しそうに笑う光秀に対し、家康が笑い事じゃないんですけど、と呟く。
「私、朝餉運んでくるね!」
恥ずかしそうに頬を押さえながらさえりが部屋を出ていく。
「うつした詫びに俺が朝餉を食べさせてやろうか?」
「お断りします」
家康は光秀を軽く睨む。
「どうせなら、さえりがいいです」
家康の言葉に、一瞬、光秀が真顔になった。
「……なんか言ったか?」
「聞こえてる癖に。何でもないです」
少しだけ光秀に仕返しした家康は、運ばれてきた朝餉を満足そうに口に運んだ。