第23章 咳逆疫
今日は朝から調子が悪かった。
コンコンと咳き込んださえりは縫い物の手を止めた。
「大丈夫ですか? さえり様」
針子仲間が心配そうに問いかけてきた。
「うん、大丈夫。ありがとう。軽い風邪かも知れないから、今日は早めに上がるね」
そう言って針子部屋を後にする。正直、寒気もしてきており、あまり大丈夫ではなかった。
安土城にある自分の部屋に戻り、褥に倒れこむ。
光秀と恋仲になってからは光秀の御殿で過ごす事が多かったが、安土城にもさえりの部屋は残されており、光秀が居ない時や仕事の邪魔をしたくない時などはこちらを使っていた。
針子の仕事で忙しいから安土城の部屋に泊まると適当に理由をつけて、さっき女中さんに伝言をお願いしてきた。
熱さと寒さが交互に襲い、震えがくる。眩暈もしてきた。高熱が出ているようだとボーッとしはじめた頭で考える。
「もしかしたら、インフルエンザかな……」
花冷えの季節。急な高熱。可能性は高そうだ。だとしたら、余計光秀にうつす訳にはいかない。
どうせ食欲もないし、とさえりは暫く部屋に引きこもる事にして、眠りについた。