第21章 雨
馬鹿な事を聞いた、と光秀は思った。そもそもさえりを手放すつもりは毛頭ない。その上、さえりがそう答える事は少し考えればわかるはずだった。さえりの口から聞きたかったのかもしれない。
やはり、自分は弱くなったのか
いや……
弱さを自覚するからこそ強くなれる事がある筈だ。さえりは選んだと言ったが、事実は変わらない。ならば、さえりの未来に責任を持とう。
光秀はさえりを見つめると、羽織ごと引き寄せ口づけた。
「お前の現在過去未来をもらい受けよう」
さえりが嬉しそうに微笑む。つられて光秀も微笑んだ。
「私の過去は未来に置いてきました」
「ややこしいな」
二人はくすくすと笑う。
「だから、これから先の未来を、貴方と共に」
いつの間にか雨は止み、雲間から日が射していた。
もう、嫌な夢は見ないだろう
空と同じように、曇天だった心にも虹がかかった気がした。