第2章 わたしの世界
パァァン!!!
その時だった。
乱雑に扉が開けられて、というか弾かれて(扉が壊れないか、少し心配した)、人がなだれ込んできた。
苛ついた。
折角、綺麗に逝けそうだったのに。
矢鱈とむしゃくゃして、生き延びてやろうと思うくらいには苛ついたのだ。
「おいっ、本当にいたぞ!」
…なんか黒い?
「あの人たちに、あの子を直接殺す勇気はありませんよ……」
「分かった、無理するな、大丈夫か?」
今度は蒼?いや、紫か?
そんなことより。急いた声に紛れる、穏やかだけれど、どこか苛烈な声は私のよく知っているものだった。
案の定、寝台の私を覗き込んだのは『兄さま』だったが、その状態を見るなり、『私』は血の気が引くのを感じた。
紙よりも白い表情、引きずる足。足から滴る赤。
今の瞬間も、兄さまの足には激痛が走っているに違いないのに、それでも蕩けるような笑みを浮かべていた。完璧な優しい笑顔ではなく、それこそ慈愛に満ちた笑みは、間違いなく私に向けられていた。
わけがわからない。
『私』は迷子のような表情をした。
差し伸べられた、大好きな少し冷たい指に縋る。
「なんで」
ようやく回るようになった舌で聞けば、『兄さま』は首を傾げた。
「何がですか?」
「なに を しに きた の」
不思議そうな顔をする『兄さま』にもう一度伝える。
「ここ には だれ も いない のに」
その言葉に兄さまは少し顔を歪めた。
それから、もう一度蕩けるように笑う。
「あなたがいます。あなたを迎えに来たんです。可愛い私の梨雪」
ぱちり、と瞬きをする。
その笑顔から何かを読み取れないかと目を合わせる。
なだれ込んできた人たちーー美形な紫の人、格好いい黒いおじさん、変なお面の少年、冷たい目をした少年――にも視線を移してみる。
意味が分からない。
「一緒に行きましょう、梨雪」
そう言って『わたし』の手を握った兄さまに、よくわからないけれど、私の涙腺はぽろりと崩れた。
子どもらしくなく、静かに涙を零す私の頬を、『兄さま』はそっと拭ってくれた。