第4章 冬の黄葉
紫陽花。
八仙花とも呼ばれる花は、黄葉にとっては遠い昔に出会った女性(ひと)を指す。
黄葉のみならず彩八仙なら誰だって知っている、娘のような存在。
異能も何もない蒼玄王と蒼遙姫の従妹。
異能者の媒体としての力だけを持ち、魑魅魍魎に狙われる日々を哀れに思い、関わったのが運の尽き。
高貴な仙を「護衛を兼ねる足」ぐらいにしか捉えず、彩八仙の手を焼かせた好奇心旺盛で横着な、か弱い幼子。
紫のが唯一脇侍として召し上げようと打診した存在。
「人として在りたいの」
一言で断り、瘴気渦巻く世界に耐えられず、誰よりも先に逝った馬鹿な女。
生まれ変わりではないが、残滓が少女の中に残っていた。
彼女と同じ、黒檀の奥に紫が灯る瞳。
異能者の媒体としての力。
「梨雪」と名乗る少女に、黄葉としても葉棕庚としても名乗り返せば、
「薬学を教えて下さい!!」
と詰め寄られた。
ーーー唖然とした。
仙人ということを明かしたら、普通そこにこだわると思うが。
少女が求めたのは「黄葉」ではなく、只の人で医者の「葉棕庚」。
きらきらとした瞳に射抜かれ、気付けば頷いていた。