第3章 幸せな時間
「「お待たせしました」」
そう声をかけて定位置に座ると、既に座っている各々から反応が返される。
「いや、気にするな。私も今来たところだ」
旺季様は優しい。
蒼家の血筋を引き、本当なら王位継承権は現国王、紫戩華より上なのに、他の親族や兄弟と旺家家臣団は戩華公子との戦いでほぼ全滅。その上、戩華王に姫家の一族全滅を命じられたのに、僕と梨雪を助け逆らったせいで日陰部署に追いやられるという、今のところ何とも残念な貧乏籤人生を送っている。馬術は抜きんでていて、優秀なのもわかるけど、意外と抜けていることに気が付いた。
「出かけて帰ったら、家が消失していることがあったから縁起物の南天を植えてみた」
とか言っていたけれど、それは縁起とかの問題ではないと思う。僕と一緒に聞いていた梨雪も呆れたような顔をしていた。
「今、お食事用意するわね」
にこやかに笑う飛燕様は旺季様の娘だ。旺季様の厳しいところを削ったような、そのまま優しい人。
「飛燕嬢の料理は旨いからな~。こっち来てよかった」
豪快に笑うのは陵王様。孫陵王。
黒鬼切に認められた“剣聖”だから強いに決まっているけれど、何とも信じがたい。煙管咥えた格好いいおじ様。
今の面子では、最も古くから旺季様に仕えているらしいけれど、何時からなんてことは知らない。しかも藍州州牧というかなりの高官。こんなところにしょっちゅう現れているけれど大丈夫だろうか?
「遅いよ、待ちくたびれちゃった」
凌晏樹。
狐面を被る美少年。この中で、僕が一番気に食わない奴。優しい言葉や動作の奥の残酷さ。飽きたら直ぐに始末してしまう。“処刑人”の名は伊達じゃない。同族嫌悪ってのもある。
何より、僕の梨雪に手を出そうとする。けしからない。
「来たのか」
無表情で視線を寄越す皇毅。
葵家唯一の生き残り。旺季様に拾われた過程は僕や梨雪と大差ない。何時でも無表情で口調も冷淡。飛燕様に絶賛片思い中と思っているのは本人だけで、実は両片想いなことを当人以外全員知っている。梨雪がやきもきする程には遅々とした恋を進めている(進んでいるのか?)のが、何だか面白いと言ったら本人は怒るのだろうが。
「では、食べようか」
旺季様の声かけで、みんなが皿に箸を伸ばした。
いただきます。
旺季様
陵王様
飛燕様
晏樹
皇毅
僕と梨雪の「家族」といえる人たちだった。
