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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第11章 急接近



*リアside*


「……こんなもんかな」

両手に袋一杯の荷物を抱えて、店を出る。

安全な隠れ家が出来たとはいえ、食事を取るためには定期的な買い出しが必要で、交代で買い出しに行くことになっている。

今日の買い出しは、私の番。

幻術で隠された隠れ家は安全だけど、やはりどこか窮屈で。
こうやって外の空気が吸える買い出しの時間が好きだった。

「っと、アブねぇ」

「っ、ごめんなさい」

前から来ていた人物とすれ違いざまにぶつかり、荷物からリンゴが一つ、こぼれ落ちた。

リンゴはコンクリートの地面にぶつかる前に、赤い線に繋がれてするすると地面から離れて行った。

そのリンゴの行方を目で追っていくと、褐色の肌をした銀髪の男性の手元に収まった。同時に、赤い線もすぅっと男性の手の中に消えていった。

(何、今の。マジックみたい。手を使わずにリンゴを拾った……)

目をしばたたかせて、自分が見た光景を理解しようと頭を働かせた。

まるで体の一部のように意志を持って動いていたあの赤い線。

あの赤いのは、もしかして。血液、だろうか。

ふと、ここのところアメリアとイアンがご執心の“クラウス”の名前が浮かぶ。
血を操って戦う、謎の男。

目の前の男も同じように強いのだろうか。

アメリアが前言ってたとおり、この街にはおかしな能力を持った人がゴロゴロいるみたい。


「ほらよ」

「ありがとうございます」


手渡されたリンゴを受け取って、軽く頭を下げた。

顔を上げると眼前に男性の顔があって、その距離の近さに驚いて思わず後ずさった。

「君、名前は?」

「は? 名前?」

「君みたいな可愛い子の名前を聞かないなんて男がすたっちまう」

「ふはっ、何ソレ? お兄さんおかしー」

茶化す私とは正反対に、男は真剣な顔で私の顔をじっと見ている。

下心丸見えだというのに、顔だけは“真剣”なのを装ってるのが笑える。

見てくれはそう悪くないけれど、こんなあからさまに下心をぶら下げて近寄ってくる男なんてロクなもんじゃない事は、今までの経験でよく分かっている。

「俺はザップ。ザップ・レンフロってんだ。なぁ名前教えてくれよ」

「残念。知らない人に簡単に名前を教えちゃいけません、って言われてるの」


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