第8章 隠れ家にて
「ミスタ・ギルベルト……!!」
そう叫んだ時には、もう既にミスタ・ギルベルトの体は半分に引き裂かれていた。
肉塊と化したミスタ・ギルベルトの半身が、断面を見せながらゆっくりと倒れていく。
「!!」
瞬間、景色が一変した。
周りは白い壁に囲まれている。
体を起こしてみれば、自分がベッドに横になっていたことが分かった。
体中にじっとりと嫌な汗をかいている。
「夢……?」
そう思ったものの、先ほどの映像が夢なのであって、きっとミスタ・ギルベルトの身に起こったことは夢ではないはず。
確かに私は、彼の体が鋭い爪に引き裂かれる瞬間を目の当たりにした。
飛び散る血しぶきと鉄の匂いは今も鮮明に覚えている。
あの後、何が起きたのだろう。
私もあの鋭い爪に引き裂かれて死んだのだろうか。
あたりを見回しても、この白い部屋には見覚えが無い。
自分の体を触って感触を確かめてみたけれど、生きている時と何も変わりないようだった。
死後の世界も案外現世とそう変わらないものなのかもしれない。
カチャリ、と部屋のドアが開くと、見慣れた顔が覗き込んだ。
教会にいた仲間のうちの1人、リアだ。
「あ、起きた。イアン呼んでくるからちょっと待ってて」
言って、リアは兄さんを呼びに行ってしまった。
けれどすぐに兄さんを連れて戻ってきた。
「アメリア、気分はどう?」
列車を暴走させた時の兄さんと違って、今の兄さんの声音はとても優しかった。
私を心から心配してくれている、そんな風だった。
ずっと今のままの兄さんでいてくれたら、良いのに……。
「……あまり、良くないわ」
あの光景が目から焼き付いて離れない。
嫌だと思っても何度も頭の中で繰り返し再生されるあの光景に、嘔吐せずにいられるのが不思議なくらいだ。
「また危険な目にあわせてしまって、悪かった。複数をいっぺんに操るのは、まだ慣れていないから…力の加減が難しくて」
やはり、あの騒ぎは兄さんが起こしたものだった。
そうじゃないかと思ってはいたけれど。
「私、生きてるの?」
「なに言ってるの、ピンピンしてるじゃない」
リアが私の頭にコツンと拳をあてる。
おかしなことを言っていると思われたのか、リアは私の目の前で何度か手をヒラヒラさせた。