第6章 The Lady is Cinderella.
―アメリアside―
私は事故のあと、あてもなく街を彷徨った。
兄さんの元へは戻りたくなかった。
他の子供達の事も気になったけれど、兄さんと顔を合わせるのが嫌だった。
兄さんはあの事故の一部始終をどこかで見ていたはずだ。
一体どんな顔で。
どんな思いで。
あの大事故を眺めていたのだろう。
兄さんの元に戻りたくはないけれど、このまま放っておくわけにもいかない。
私の言葉はもう届かない兄さんを、いったいどうしたら止められるだろうか。
ふと、ミスタ・クラウスの顔が浮かぶ。
あの方なら、私の話を聞いてくださるかもしれない。
先ほどもあの方だけは、私の言葉に耳を傾けてくださった。
ミスタ・クラウスに手渡された名刺を見る。
そこにはこう印字されていた。
─LIBRA Executive Director─
Klaus V Reinherz
「ライブラ常務取締役……? 何かの会社かしら?」
今日お会いした時も、前回お会いした時も、立派な身なりをしていらした。
きっと名のある方なのだろうとは思っていたけれど。
「クラウス・フォン・ラインヘルツ……」
これがあの方のフルネーム。
お名前に『フォン』がつくということは、ミスタ・ラインヘルツが貴族の出身だということを表している。
私とは住む世界の違う方。
それなのに、偶然とはいえ2度も助けていただいたなんて。
あの不思議な真っ赤な十字架を操る、ミスタ・ラインヘルツとはいったいどんな方なのだろう。
たった2度お会いしただけでも、正義感に溢れる優しい方だとは分かったけれど、それ以上のことは何も分からない。
果たしてミスタ・ラインヘルツに兄の事で頼るのは正しいことなのだろうか。
素性のよく分からない人物に、兄の力のことを話してもよいのだろうか。
名刺の裏には、ミスタ・ラインヘルツが書き残した連絡先が記されている。
メールアドレスと電話番号。
メールを送る手段を私は持ち合わせていない。
かといって、電話をかけるにしても……
「お金も、ないわ……」
今、私は無一文であることを、そこでようやく思い出した。
これではミスタ・ラインヘルツに連絡の取りようもない。