第27章 運命の糸先
食事を終えて劇場に向かう車の中で、私は不安と期待でいっぱいになっていた。
先ほどのレストランまでで、随分と神経をすり減らしてしまった。着慣れない服、履きなれない靴。それにクラウスさんと行く場所は、どこも雰囲気に飲まれそうな圧倒される場所ばかりで。
彼の隣で自分が何か失敗をしてしまわないかと、どきどきしてしまう。
自分が恥をかくならまだしも、一緒にいるクラウスさんに恥をかかせたくはない。
車の外に目を向けると、煌びやかな外の世界に目が眩んだ。街はどこもクリスマスに向けて装飾が施されている。通りに並ぶ木々は、白い光の粒をたくさん身にまとっていた。
その光に照らされながら歩く人々の顔は、人間も異界人も、どこか楽しそうに見えた。
外の世界はこんなにも眩しく、輝いていることを私は今ようやく知った。
もうあの苦しかった日々に戻りたくない。
このまま幸せな時間を過ごせたらどんなにいいだろう。
劇場前に着くと、ギルベルトさんがドアを開けてくださった。先に降りたクラウスさんの大きな手が、私に向けられる。
「お手をどうぞ」
「ありがとうございます」
微笑んで、彼の手をとった。
車から降りると、足元には赤い絨毯が広がっていた。
赤い道は劇場の階段へと続いていて、私はクラウスさんと一緒に、その道をゆっくりと歩いて行った。
「行ってらっしゃいませ」
ギルベルトさんに見送られて足を踏み入れた劇場は、吹き抜けのロビーに既に大勢の人がひしめいていた。シャンパングラスを手にした着飾った人々に、酔いそうになる。
どう考えても自分の存在が場違いにしか思えず、不安でクラウスさんの顔を見上げてしまった。
「どうしたのかね、アメリア」
「あ……あの、私、浮いていませんか?」
クラウスさんはこういった場に慣れているのか、私が何を気に病んでいるのか分からないといった様子で首を傾げた。
「浮く? いや、全く。そのような心配をせずとも、君はこの場にいる誰よりも美しい」
突然の賛辞に、私の鼓動は早くなる。
そういう言葉を待ち望んでいたわけではないから、余計にどう返事をしたら良いのか分からなくなってしまった。
薄く微笑むクラウスさんに、笑みを返すのが精一杯だ。
「ミスタ・ラインヘルツ!」
人ごみをかき分けて、こちらにやってきたのは老齢の紳士だった。