第26章 Cinderella Dream
「皆が忙しいところ申し訳ないが」
「気にするなって言ったろ。今日くらいはゆっくりしてくるといい」
コーヒーの匂い漂うマグカップを片手にスティーブンはひらひらと手を振った。
ファイルの山に埋もれたレオナルドやザップも、出かけるクラウスとアメリアを見送る。
事務所の扉の向こうに申し訳なさそうな顔のクラウスが消えていってしばらくすると、ファイルの山から顔を出したレオが声をあげた。
「スティーブンさん、本当に行かせて良かったんですか…?」
おそるおそるといった感じでレオナルドがスティーブンに視線を向けると、スティーブンは軽くため息をついた。
「彼女も外出を望んでいたからね」
「でも……」
レオナルドの隣にいたザップが、パタンと大きめの音をたててファイルを閉じた。
レオナルドが視線をザップに移すと、ザップは普段より幾分か真面目な目をしてレオナルドを見ていた。
「ったく、いつまでもうだうだと小せぇ男だな。アソコの小せぇやつは気が弱くっていけねぇ」
「今はそういうの関係ないでしょーが!」
「お?アソコが小せぇのは認めるってか?」
「だーかーらー!!」
「…バカはそこまでにして、お前らはやらなきゃいけない事に専念しろ。これからが正念場なんだからな」
「ふぁい……」
スティーブンの言葉に、やかましくなり始めた事務所は一気に静かになった。
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「…ごめんなさい、ワガママを言って」
ギルベルトの運転する静かな車内で、アメリアは申し訳なさそうにこぼした。
それを聞いたクラウスはゆっくりと首を振る。
「すまない、気を遣わせてしまったな」
先ほどクラウスが事務所に残る皆に申し訳なさそうな態度を見せたからか、アメリアは外出することを気に病んでいるようだった。
「我儘だとは思っていない。私が随分と君の行動を制限してしまっていたからな。少しでも気晴らしになるとよいのだが」
「とんでもないです。クラウスさんと出かけられるのなら、こんなに嬉しいことはありません」
アメリアの目はキラキラと輝いていて、彼女の言葉が本心であるとその目は訴えていた。
真っ直ぐに向けられたその視線に、少し気恥しさを覚えつつクラウスはどこか嬉しく思わずにはいられなかった。
「…そうか。そう言ってもらえると、私も嬉しい」