第25章 ある者の独白
…以下、異界人の供述を記載する。
なおこの文書閲覧の際にはダニエル警部補の許可を得る事。
──ここは“地上の楽園”だと、アイツは言っていた。
その言葉がある種の隠語なのだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
美しいステンドグラスを背にして並んだ十二の顔。
それぞれに愛嬌のあるその顔の前に、白い布を垂らして彼らは歌う。
ここは音がよく響く。教会はそういう造りをしているものなのか。
“神”がどんなものか分からない俺には、歌の中に頻繁に出てくるソイツに何の感情も抱けなかった。
日々退屈だった。
興味のない歌も、夜な夜な響く嬌声も、耳障りなだけだった。
だったら逃げ出せばよかったんだと誰もが言うだろう。
お前には力があるじゃないかと笑うやつもいるだろう。
だが、そういう訳にはいかなかったんだ。
俺はあの土地に縛られていた。
簡単な話さ、騙されてしまっただけだ。
騙されて変な契約を結んじまった。
──幻術が使えるのに騙されるのかって?
現に騙されてたんだから、仕方ないだろ。
あの土地から離れる事は出来なかった。
そして周囲の目から十二の顔を隠す仕事を与えられた。
今更必要なのかと笑いそうになったが、白い布で顔を覆うだけでは足りないらしい。
来る日も来る日も、同じ事が繰り返されるのを、俺はただぼんやり眺めているだけだった。
十二の顔はたまに一つ二つ消える。
けれどしばらくするとまた増える。
消える時には売人がやって来た。増える時には人間がやって来た。
──それが誰だろうと興味はなかった。知ったところで何という事はないから。いちいち興味のない事を覚えていられるか? そう言う事だ。
時々入れ替わっても、十二の顔は仲間だった。
身を寄せ合い、生きていた。
あの教会で唯一興味が湧いたのは、その十二の顔だった。
人類の年を見た目から判断するのは苦手だが、彼らはたぶん幼生体だろうと思った。
──ああ、子供というのか。人類においては。
子供をいたぶるのが趣味の物好きが毎夜訪れては、彼らの体を隅から隅まで撫でまわしていく。
──そりゃおぞましいものだったよ。俺にはそんな趣味はないからね。
見たくもないから一度見た後はもう見なかった。
だけど音だけはどうしても耳に入ってくる。
喜びむせぶ声なんてそう無かった。痛みに泣き叫ぶ声の方がよく耳にしたな。