第19章 熱にうかされたふたり
自分のとったあの行動は、果たして彼女の体を心配するが故にとったものだと、胸を張って言えるだろうか。
疚しさなど微塵もなかったか?
首筋に唇を落とした時点で、いやもっと前、アメリアの服のボタンを外し始めた時点で、私は何かしら期待をしてはいなかっただろうか。
病室で誓ったはずだというのに、彼女に近づけば近づくほど、腕の中にかき抱きたい、肌という肌に花びらを散らしたい、アメリアの甘い声を聴きたいという思いが体の奥底から湧き上がってしまうのは、何故なのか。
いまだ、指先にはハッキリとした感触が残っている。
ぬるりとしたあの甘い蜜が指にまとわりつく様も、蜜壺に吸い込まれそうになった指の感覚も、鮮明に思い返すことが出来る。
あのまま深くまで、思わず指を差し入れそうになった。
私の体の上で腰を揺り動かすアメリアの中に、まるで自身を差し入れるような感覚に陥りそうだった。
私は疑似的にアメリアの中に侵入しようと試みていたのかもしれない。
──何たる、浅ましさか。
己の欲望に負けて、あんな風に彼女に触れて。
あまつさえアメリアに私自身を、あのような汚らわしい行いをさせてしまった。
私は再三彼女の為だと口にしながらその実、己の欲の為に物事を運んでいるのではないか。
K・Kに『事務所に連れ込んだ』と言われても仕方のない事を、私はしてしまっている。
何故。
これほどまで己を抑えることが出来ないのだろう。
自分を律するのは得意なはずだ。
性的な欲望も、普段はほとんど感ずる事はないというのに、彼女のそばにいると、抑えられないほどの衝動が湧き上がってくるのは、一体──。
教会の鐘が、正午を告げる。
幾重にも響き合うその鐘の音は、まるで神からの啓示のように思えた。
己の気持ちを認めよ、と。
心の奥底にしまい込んだものと正面から向き合うようにと、神に告げられた気がした。
──私は、彼女を。
アメリアの事を、一人の女性として愛している。
浅ましいほどに欲情してしまうのは、彼女を愛しているから。
口付けだけでは足りないと、その先を欲してしまうのも、愛する故に、彼女の全てを手に入れたいと願うから。
愛とは。
欲望とは。
これほどまでに人を狂わせ、制御することの難しいものなのか。
私は初めての感情に、戸惑うばかりだった。