第3章 God's will
個室は今まで見たどの部屋よりも豪華だった。
部屋自体は小さいが、中には金細工や銀細工、光り物があちこちに飾られている。
ベッドも他のどのベッドとも違う。
小ぶりだが真っ白なシーツと、見ただけで手触りがよさそうだと分かる真っ赤な上掛け布団。
天蓋には豪奢な金色のタッセルがいくつもぶら下がっている。
「…なるほどね。業突く張りの牧師だったらしい」
牧師らしく、ベッドのそばの小さなテーブルには聖書が置かれていた。
そしてその聖書のそばには、いかにも何かあるといわんばかりの鍵がかかった赤い箱があった。
「開けてくださいと言ってるようなもんだなコイツは」
軽く箱を振ってみると、カタカタと音がする。
持ってみれば箱は見た目よりずいぶん重く感じ、中のものがそれなりの重量であることを示していた。
「おい、これ開けてくれ」
隣の部屋にいた警官に声をかけ、特殊形状の鍵で箱の鍵を開けさせた。
カチリと音がして、箱が開く。
中には、黒い一冊の皮張りの手帳が入っていた。
ダニエルが手帳をめくると、そこにはびっしりと文字が並んでいた。
『February 15,20XX /No.515/ Peter Andrew John James…』
日付と、No.515という数字と、人物名。
そして最後に〇〇ゼーロの表記。
どのページを見ても、数字や人名に変化はあれど同じような文字が書かれていた。
「一体何の暗号だ?」
大事そうに鍵付きの箱に入れていたのだから、ただの帳簿で無いのは確かだ。
険しい顔で手帳を覗き込むダニエルの横で、同じく手帳を覗き見ていた警官がぼそりと呟いた。
「ペトロ、アンデレ、ヨハネ、ヤコブ……」
「ん?」
「これ、十二使徒の名前ですよ。…あ、七十門徒の名前もある」
「十二使徒……それに七十門徒だと?」
「イエス様の弟子ですよ」
「……つう事は、この人名は隠語だな」
──最後に必ず金額が書き込まれているところをみると、どうもこの『弟子たち』と何らかの取引をしていたとみえる。
ではこのNo.515というのは……?
ハッとしてダニエルは手帳から顔をあげた。
手帳をつかんだまま、バタバタと先ほどのベッドが詰め込まれた部屋に戻る。