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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第3章 God's will




「──どうした、事故か?」

運転席の警官に、ダニエル・ロウ警部補が声をかけた。

先ほどから遅々として進まない車の列に苛立ち、ダニエルはタバコを咥えだした。

「いえ、警部補。事故発生の報は受けていません。…っ、確認して参ります」

バックミラーに映ったダニエルの三白眼に怯えてか、警官は慌てて車から飛び出していった。

「現場は目と鼻の先だってのに」

なんだってこんなところで渋滞なんか起きているのか。

もう歩いて現場に向かおうかと思うダニエルだったが、飛び出していった警官が戻らねばこのまま警察車両を放置したままになってしまう。

原因を特定すればすぐ戻ってくるだろう、とダニエルはしばし警官が戻ってくるのを待っていた。

思った通り、警官はすぐに戻ってきた。

後部座席の窓ガラスをノックして、言う。

「警部補、どうやら店に集まった人々が車道に溢れているのが原因のようでして」

「…人だかり? デモか? そんな申請出てた覚えはないが」

「いえ、それがどうやら今流行りの……」



ダニエルは車から降りると、警官の後に続いて人だかりに近づいた。

何かが宙を舞うたびに、わぁぁと大きな歓声があたりに響き渡る。

空を舞っているのは、色とりどりの洋服のようだった。

なるほど、店の看板はダニエルにもなじみ深い洋服屋のものだ。

店の壁にはデカデカと真っ赤な文字で“FREE(無料)”“God's will(神の御意志)”と書かれたポスターが貼りつけられている。


「…神の御意志……? ったく、神の名を借りた陳腐な宣伝か」

ダニエルの顔は苦々しい顔つきになった。

「おい、店の責任者を呼んで指導入れろ。このままだと怪我人が出る」

「はっ! 承知いたしました!」


店の混乱を警官に任せて、ダニエルは徒歩で近くの現場へと向かった。


(──ここ最近、急にあちこちで“慈善活動”とやらが行われるようになったが……)


ダニエルは熱心なクリスチャンではなかったので、巷をにぎわせているこの騒ぎにあまり関心は無かった。


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