第2章 ヘルサレムズ・ロットの日常
「──少し、妙だと思わないかクラウス」
スティーブンが少し離れたデスクに座るライブラのリーダーに声をかけると、クラウスの眼鏡が光った。
プツ、とテレビの電源が入る音がすると、画面はヘルサレムズ・ロットの一角を映し出した。
そこはチェインが大量のドーナツを貰ったというドーナツ屋だった。
リポーターが店の主人らしき人物にインタビューを行っている。
『なぜ、ドーナツの無料配布をされたのでしょうか?』
『なぜって……そうしないといけないような気がした、としか』
『なるほど! 道行く人々に施しを与えたと』
『ええ…? いや、そんな大それた気持ちではなく…ただ、そうしなければいけない、と』
『なんと素晴らしい!! 皆さん、この素晴らしい慈悲の精神の持ち主は、〇●ドーナツの──……』
そこまでインタビューを見終わったところで、クラウスはゆっくりとスティーブンに頷いてみせた。
「…うむ。レオとザップが目の当たりにしたコンビニでの一件と、何か関連があるかもしれない」
「でも、関連があったとしても何か問題がありますかね?」
レオナルドの指摘通り、コンビニでの一件もドーナツ屋での一件も、普段の血なまぐさい事件に比べれば、別段問題はないように思えた。
「どうだろう。まぁちょっとしたおかしなことなんて、ここじゃ日常茶飯事だけど。ただなんというか、長年の勘がね」
スティーブン──スティーブン・A・スターフェイズは、『大崩落』の時からクラウスと行動を共にしている、メンバーの中でも最古参の人間だ。
そのスティーブンが言うのだから、この二つの出来事は何らかの予兆なのかもしれない。
「ま、とりあえず今のところ血を見るような騒ぎは起きていないから、様子見ってとこかな」
「そうだな。ひとまず、今追っている件に注力する事にしよう」
スティーブンとクラウスの言葉に、レオナルドはこくりと頷いた。
外の世界では『非日常』『ありえない』とされる事が容易に起こる街、ヘルサレムズ・ロット。
その日常は、静かに─だが確実に大きなうねりを伴い始めていた。