第11章 急接近
額にうっすらと血を滲ませた兄さんと目が合う。
私を見る兄さんの目は、もう妹を見る目では無かった。
「逃がすものか! 絶対零度の地平(アヴィオンデルセロアブソルート) 」
男性が何事か唱えると、パリパリと音を立てて床の上に氷の道が出来ていく。
その氷の道は真っすぐこちらに向かってきている。
あ、と思った時にはすでに私の体は凍り付いていた。
白い息が目の前を流れていく。
冷たい……そう思ったのも束の間、次の瞬間には冷たさは痛みに変わっていった。
痛い。痛い。痛い。
氷に固められたまま、苦悶の表情を浮かべる私を、ミスタ・クラウスはどこか悲しそうな目で見ている。
「くそっ! 少年の方は取り逃がしたか……」
「スティーブン、彼女に逃走の意志は無い。解放してやってくれないか」
「しかし、この子も仲間だ。何をするか分からん。テレポートで逃げられても困る」
「スティーブン」
「……分かったよ」
ミスタ・クラウスの押しに負けたのか、スティーブンと呼ばれた男性は、私を氷漬けの状態から解放してくれた。
がくんと体の力が抜けて、立っていられなかった。
そのまま床に倒れこみそうになったところを、ミスタ・クラウスが抱きかかえてくださった。
「……ミス、タ・クラウス……ご迷、惑を……申し訳……」
「喋らなくていい。スティーブン車を回してくれ。彼女を病院に連れて行く」
私はまたミスタ・クラウスのウエストコートに包まれて、運ばれていくこととなった。